シリコーン製だからと安心していませんか

ステンレス製調理器具の上手な使い方をご紹介した前回記事に続き、本記事では焼き菓子作りやその他お料理全般で利用できる、いま人気のシリコーン製調理器具の使い方をご紹介します。

アルミニウム製やテフロン製の調理器具の危険性が広く知られるようになった今、シリコーン製の調理器具が一気に注目を集めています。ただ残念ながら、シリコーン製に変えたからと言って安全が保証されるわけではありません。アルミニウム製は条件さえ整えば安全に使用できますが、シリコーン製はほとんどの場合、使用を控えるべきであることが分かってきました。とはいえ、本記事にてご紹介するいくつかの例外ケースもありますので、すでにシリコーン製の焼型をお持ちの方はぜひ参考にしてください。

シリコーンとシリコンは同じもの?
そもそもシリコーン(Silicone)とは一体何のことでしょうか?自然界に存在し、化学記号Siで表記される原子番号14番のシリコン(Silicon)と同じものでしょうか?

実はシリコーンとシリコンは全く異なるものです。にも関わらず、シリコンが自然界に存在する元素であったことが消費者を混乱させ、結果的に調理器具メーカーに好都合な状況が作りだされてしまったようです。

科学誌サイエンティフィック・アメリカンによると、シリコーンは人工的に生成されたゴムだそうです。(以下、引用):

「シリコーンは、シリコン(砂や石に豊富に含まれる元素)と酸素を人工的に結合させて生成されたゴムです。このゴムが調理器具におけるニッチなニーズをとらえ、広く利用されるようになりました。シリコーンは強くしなやかな素材で、マフィン型やカップケーキ型、へら等のキッチン用品などの素材として人気があります。冷凍庫でもオーブンの中でも(華氏428度、摂氏220度まで)使用可能です。長く使っているうちに食べ物がくっついたり、食べ物や油のシミが残るようなこともありません。また従来の調理器具と違い、非常にカラフルに色付けされて販売されています。(出典)」

一般的に安全な調理器具と考えられていますが、実は・・・

製造メーカーのウェブサイトや、健康をテーマにしたブログ/ウェブサイトでは、シリコーン製調理器具をほめたたえる記事ばかりが掲載されています。例えばこちら。

「シリコーンは不活性(化学的な反応性が低い)素材です。FDA(アメリカ食品医薬品局)によると、シリコーンには臭いがなく、食べ物に溶け出したり、健康上のリスクを伴うこともないそうです。非常に安定した素材であるため、専門家もシリコーン製調理器具を低リスクな選択肢の1つと考えています。」

しかしよく調べてみると、これとは異なる事実が浮かび上がってきます。シリコーン研究者の意見や彼らの研究論文から察するに、シリコーンが安全なものであるようには見えません。そもそもシリコーン製調理器具が開発されてから日が浅いため、十分に研究が進んでいないことが懸念されます。しかしそれにも関わらず、1979年の時点ですでにFDAは二酸化ケイ素(Silicon Dioxides)を承認しているのです。本当に驚くべきことです。シリコーン製調理器具の主成分である二酸化ケイ素を「一般的に安全である(GRAS – Generally Recognized as Safe)と正式に認定したのです。(関連文書)

料理本や食品関連コラムの執筆を手掛けるマリアン・バロスは、シリコーンに関して以下のような懸念を感じています。

「シリコーン製調理器具を検証した際に拭えなかったのは、これは本当に安全なの?という想いでした。残念ながら、安全を保障するのに十分な研究結果が見当たらなかったのです。(出典)」

シリコーン製調理器具に対する懸念事項

シリコーン製調理器具に対する懸念は以下の3つに大別されます。
1. シリコーン製調理器具の原料
2. 製造過程で使われる物質
3. 原料や物質が食べ物に混入する可能性

これらを一つ一つ見ていきましょう。

シリコーン製調理器具の原料

人気のある商品につきものの大きな問題は、低価格・低品質な代替品の存在です。シリコーンに関しても同様です。シリコーン製調理器具が発する臭いなどの問題の多くは、低品質な商品に含まれている染料や混ぜ物が原因のようです。

品質の簡易チェック方法:ねじる
シリコーン製調理器具をねじるだけで、その品質を確認できます。もし白い線がたくさん出てきたら、混ぜ物が多く使われている可能性が高いです。純正シリコーン(安全性が高い)であれば、ねじっても色は変わりません。(参考)

またお持ちのシリコーン製調理器具が、調理器具製造用に認可されたシリコーンのみで作られていることを確認するのも重要です。ラベルや販売店から確証が得られない場合は、製造メーカーに確認してみましょう。もしくは、原料の安全性を保証するメーカーの製品のみを使うようにするのもいいでしょう。(参考)

製造過程で使われる物質

高温・高圧の環境下で行われるシリコーン製調理器具の製造工程では、成型された製品を型から取り出しやすくするためにさまざまな薬品が使われます。調理器具を製造する際に使用できる薬品の種類は限定されていますが、多少はこれら薬品が最終製品に残っている可能性はあります。シリコーン製調理器具に関する大規模研究の1つであり、2005年にスイス公衆衛生局が発表した研究でも、このことを以下のように認めています。

「初回利用の前後でシリコーン製調理器具の重さが大幅に軽くなる理由として、製造過程で使用した溶解剤やその副生成物が失われたこと*1、もしくは製造後の事後処理が不十分であったこと*2が考えられます。

無用なコストを避けるため、製造業者によってはこの事後処理をせずに、初回利用時は食べ物を入れない状態で摂氏230度(華氏446度)で2時間熱することを購入者に求めている場合もあります。またその際に煙が発生する場合もありますが、それは無害であると購入者には伝えています。(出典)」
*1 最終製品に残留した溶解剤やその副生成物に含まれている化学物質が、初回利用時の熱で揮発し製品の重さが軽くなった
*2 そもそもこれら揮発性化学物質の除去処理を製造業者が省略したため、製品内に残っていた分が初回利用時に一気に揮発し、製品の重さが軽くなった

とはいえ、一体どれだけの購入者がきちんと使用上の注意事項を読み、食べ物を入れずに決められた温度で2時間もその商品を熱するでしょうか?決して多くはないでしょう。

さらに加熱後は、温水と洗剤でよく洗い、よくすすぐ必要もあります。ただし以下でも述べているように、食器洗浄機の使用はおすすめしません。

食べ物に混入する可能性

体内に入り込んだ原料の一部が生物学的にどのような影響を及ぼすかは、調理器具を考える際に最大限の注意を払うべきことです。非常に多くのウェブサイトやブログが、シリコーン製調理器具の安全性と化学的な安定性を強調していますが、これが間違った“真実“であることが明らかになってきました。

前述した、シリコーン製調理器具に関する大規模な研究がこのことを調査し、以下のように発表しています。

「本研究の目的は、高温環境下でシリコーン製調理器具から化学物質が流出するかを検証することであり、特にケーキや焼き菓子を作る際のオーブン設定温度である摂氏200~220度、華氏392~428度でどのような結果になるかを確認することである。また調理器具メーカーが発表している耐熱可能レベルの検証のため、最大で摂氏280度、華氏536度の温度下における実験もいくつか実施した。現在、食品との接触が見込まれる調理器具に求められる製品テストの温度条件は最大で摂氏175度、華氏347度である。したがって、実際に使用される温度条件を踏まえた製品テスト仕様を構築することは非常に重要である。(出典)」

この研究の結果、以下のような非常に恐ろしいことが分かりました。

「シリコーンから生成されたエラストマー*1は耐熱性・耐久性に優れているものの、高温下では化学的に分解・揮発してしまい、その揮発物質が食品に混入してしまいます。食品との接触が見込まれる調理器具の素材としてシリコーンを問題視する発表はまだ数が限られています。しかしそれらの発表では、シリコーン製調理器具から食品に一定量の物質が混入することが述べられています。(出典1、出典2)」
*1 ゴム弾性を有する工業用材料の総称

強度を高める加工処理の効果

では一体どれだけの物質が使用中に流出し、食べ物に混入してしまうのでしょうか。大量に、です。どれだけのシリコン・ポリマー(シロキサン)が食べ物に混入するかは、強度を高める加工処理が施されているかによって異なります。揮発性有機化合物を多く有する(1.1%)製品の場合、このような加工処理を施されていないと非常に多くの食品混入が発生します。(出典)

調理器具以外の用途はどうでしょう?

シリコーンを調理以外の用途に利用するという最後の可能性も、数多くの研究の結果に否定されています。例えば、身体に埋め込む医療器具の素材としては、シリコーンが体内で溶解する等の問題やそれが原因で引き起こされる健康上の問題が指摘されています。それ以外の研究結果についてはこの記事を参照してみてください。

シリコーン製調理器具を使うべきか?

シリコーン製調理器具に関する最新の研究結果を踏まえると、調理目的でシリコーン製器具を利用するのは避けた方がよさそうです。当然ながら、シリコーン製のマフィン型や焼き皿のオーブンでの使用は絶対に避けましょう。熱い料理やスープなどをかき混ぜるときも、シリコーン製のものではなく、金属製、木製、もしくは竹製の器具を使った方がよいでしょう。

すでに冷めているものをボウルなどからすくい取る分には、シリコーン製のへらなどでも問題ありません。また(製造メーカーが推奨しているように)一度オーブンで熱し、よく手洗いしたものであれば、氷やゼリー、アイスキャンディーなどを作るために使うのも問題ありません。ただし使用後は、低刺激の洗剤と温水で手洗いすることを忘れずに。洗浄力の強い洗剤や食器洗浄機の熱湯洗浄によるシリコーンの溶解を避けることができます。

もちろん、調理以外の目的で使う分にはほとんど心配はありません。せっけんやろうそく作りに使っている人も多いですし、こういった使い方であれば健康上のリスクもありません。

結論です。調理以外の目的であれば安全に使えます。高温での利用はいかなる目的であっても避けましょう。室温や冷蔵、冷凍環境での利用であれば、調理目的であっても健康上のリスクはありません。これが現在の最新の研究結果に基づいた結論です。

ジョン・ムーディ。ウェブサイトSTEADERの運営責任者。執筆・講演に加え、自らも自作農業に従事するなど、本当の食事の大切さを訴え続けている活動家。そしてもっと重要なのは、素晴らしい妻と5人の子どもを持つ父親であること。全米各地のイベントで講演を行う傍ら、数多くの出版物と農家・自作農家・食品ビジネスのコンサルティングも手掛ける。現在、書籍を2冊執筆中。
https://steader.com/

出典: ヘルシー・ホーム・エコノミスト
原文筆者: ジョン・ムーディ